リプロダクティブヘルス・プラットフォーム「Youth Terrace(ユーステラス)」では、若者一人ひとりの多様なライフコースにおけるwell-beingの実現を目指し、全ての若者たちがリプロダクティブヘルスに関する正しい知識を得られ、困難を相談・解決できる社会システムの構築を推進しています。
こちらのページでは、2019年度より実施している「包括的健康教育」を受講してくださった方や「Youth Terrace(ユーステラス)」を実際に活用してくださった方、運営にたずさわってくださった方の声をインタビュー形式でお届けしてまいります。
第1回は、法政大学教授の武石恵美子氏にインタビューを行いました。武石氏には、2019年度より「包括的健康教育」を大学の講義内で提供する機会をいただいています。
1. 大学生を取り巻くリプロダクティブヘルスの現状と課題
学生に高い関心
武石:昨年、一昨年と「
包括的健康教育」の講義を行っていただきました。私の「ライフコース論」という授業で講義をしていただき、結婚や出産といった講義の後に展開したので、学生も違和感なく受講できたようです。受講後、学生たちからは「こういう話は聞いたことがなかった」「聞くことができてよかった」などの感想が寄せられました。やはり学生たちの関心は、高いと思いますね。
悩みを相談できる場、情報や知識を得られる機会が必要
学生たちは、日々の生活の中で、性に関する不安や心配ごともあるでしょうし、事前に知っておいたほうがいい情報もあります。しかし大学の教員は、基本的に学生との接点は授業のみで、大人である学生に対して性に関する話をすることはありません。ですから大学生にとって、悩みを相談できる場があるとか、情報や知識を持っているということは、非常に重要だと思うのです。大学では、教員が直接こうした問題に関わるのは難しいと実感しています。
体育の授業に「包括的健康教育」を取り入れる可能性
本学では、体育が必修授業となっており、低学年で受講します。体育の授業で「包括的健康教育」を1コマ取り入れられれば、学問分野としての親和性があっていいかもしれません。実現すれば、入学後の早い段階で、全ての学生に情報が行き渡ることになります。ただし、体育は女性の教員が少ないため、「包括的健康教育」の講義を学外の方にしていただくのは意義があると思います。
2. 実際に受講された「包括的健康教育」について
男女を問わず、学生の心に響く内容
講義後のアンケート結果を見ると、「もっと早く聞きたかった」「他の学生にも聞いてほしい授業だった」というコメントが多かったため、学生たちの知らなかった情報を教えていただいたことが伺えます。
男子学生も、「女性はこんなに大変な思いをしているのか」「相手のことを考えなければいけない」など、自分ごととして考えられるようになったようです。講義内容が、学生の心に響いていると感じました。
雑談の中で、学内の先生に今回の「包括的健康教育」の話をしたところ、ぜひ1年生の授業でもやってほしいということになりました。受講後、やはり学生の評判が良かったようです。自分の身近な問題として、考えてもらえたのではないでしょうか。
今村(HGPI):そうですね。「大学生である今、この話を聞くことができてよかった」、「かかりつけの婦人科医をみつけることは大切だと思った」、「後悔しないためにも、知っておくことが重要だと思った」、「両親に感謝」、「正しい知識をつけて、自分の今後の人生設計にきちんと向き合って考えていきたい」など、学生さんが書いてくださった感想を読んで、とても嬉しかったことを覚えています。
外部の専門家による正しい情報共有
武石:自分では性やリプロダクティブヘルスに関する話は専門外なのでできませんから、外部講師が来てくださるのは、とてもありがたいですね。もし、妊娠したらどうすればいいのかなど、いろいろなケースを交えながら、正しい情報を伝えていただきました。こういう話は、やはり専門家にお願いしなければ、正確性の面で心配です。
今村(HGPI):中学・高校で性教育を実施すると、普段習っている体育の先生では恥ずかしいけれども、外部講師による出前授業だったため、抵抗なく聞けたという感想をよくいただきます。そういった観点でも、助産師などによる「包括的健康教育」の講義を活用していただければと思います。
武石:この講義が多くの大学に広がるといいですね。オンライン講義の場合、チャット機能を使って、講師に直接質問しやすいといったメリットもあるようです。
今村(HGPI):今後、オンラインでも全国の大学に広げていきたいと考えています。やはり大学生の関心が高いため、この年代に「包括的健康教育」の講義を行うことの意義を改めて感じています。
キャリアデザインの授業にも親和性
武石:現在、多くの大学では、就活支援だけでなく、キャリアデザインに関する授業を学部横断的に行っています。こうした授業も「包括的健康教育」の内容と親和性が高いですね。
法政大学では、「キャリアデザイン入門」というキャリア支援の授業が1年生の履修科目となっています。大学での過ごし方や社会で働くということについて、ジェンダー、結婚、家族、社会との絆などを含めて自分で考え、行動していく姿勢を培うことが授業の目的です。ゲスト講師を招くことも多く、今年は2000人以上が受講しました。
3. リプロダクティブヘルス・プラットフォーム「Youth Terrace」への期待
若者に広く知られることが大切
リプロダクティブヘルスに関する情報を一元化し、発信していくということで、「Youth Terrace」には、大いに期待しています。ただし、アクセスされなければ意味がありませんから、このプラットフォームの存在が、若者の間に広く知られることが大切ですね。
自治体との連携
例えば、
千代田区の男女共同参画センターMIW(ミュウ)は、DV・デートDV(配偶者や交際相手からの暴力)の相談窓口を設置しています。学生たちは、デートDVや避妊、性的同意への関心が高いようですので、そのような事業を行っている自治体との連携も有効でしょう。大学生の「包括的健康教育」は重要な取り組みですから、文部科学省などにも関心を持ってもらえればいいと思います。
大学生ユースアンバサダーによるサポート
やはり、学生たちが自分の問題として認識し、自然に広がっていくという形が、もっとも望ましいですね。
今村(HGPI):はい。そこで現在、Youth Terrace 大学生ユースアンバサダーを募集しているところです。若者当事者としてピアの視点で、意見を出してもらいながらユースカフェや広報のサポートをお願いする予定です。同世代の人たちが発信することで、若者たちに情報を届きやすくなると考えています。
武石:現在、新型コロナウイルス感染症の影響で、学生たちの横のつながりも希薄になっています。いろいろな人や機関を巻き込んで、リプロダクティブヘルスの情報が、学生にしっかり届く仕組みになっていくことを願っています。